本当にあった怖い雇用契約書②定年60歳(延長なし)
はじめに
ご相談第2弾目はこちらになります
雇用契約書で定年60歳(延長なし)という書き方は大丈夫ですか?
今って、65歳まで定年延長が義務付けられていることを聞いたのですが?
60歳定年制そのものの是非
まず「60歳定年制」については現在の法律(高年齢者雇用安定法)でも依然として有効です。
しかし、2025年(令和7年)4月の法改正の完全施行により、実務上の運用ルールが厳格化されています。
以下の3つのポイントに整理して解説します。
1. 「60歳定年」の有効性と義務の峻別
法律(高年齢者雇用安定法第8条)では「定年を定める場合は60歳を下回ることができない」とされており、60歳という定年設定自体は適法です。
ただし、定年を65歳未満(例:60歳)に設定している企業は、以下の「高年齢者雇用確保措置」を講じる義務があります。
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65歳までの定年引き上げ
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希望者全員の継続雇用制度(再雇用制度など)の導入
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定年制の廃止
2. 【重要】2025年4月からの「経過措置」終了
ここが実務上最も重要な点です。これまで認められていた「労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準(選別基準)」を設けることができる経過措置が、2025年(令和7年)3月31日をもって完全に終了しました。
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2025年4月1日以降: 60歳定年制を維持する場合、本人が希望すれば、会社側は基準による選別を行うことができず、原則として全員を65歳まで雇用し続ける義務があります。
3. 70歳までの就業確保措置(努力義務)
すでに周知の通りかと思いますが、改正法により「70歳までの就業確保措置」が努力義務となっています。これには再雇用だけでなく、業務委託契約や社会貢献活動への従事といった「雇用によらない措置」も選択肢に含まれているのが特徴です。
まとめ:社労士としての実務アドバイス
| 項目 | 内容 |
| 定年年齢 | 60歳設定はOK(法的には有効) |
| 雇用継続 | 65歳までは「希望者全員」が必須(2025年4月〜) |
| 処遇面 | 賃金引き下げは可能だが「同一労働同一賃金」の遵守が必須 |
| 給付金 | 高年齢雇用継続給付の支給率が、2025年4月以降に60歳に達する者から10%へ縮小されている(FPとしての資金計画に影響) |
法的には「60歳で一度雇用契約を終了(定年退職)させ、別の条件で再契約(再雇用)する」というステップは依然として有効ですので、退職金の支払いや社会保険の同日得喪などの手続きは、従来通り実務として発生します。
定年60歳(延長なし)の是非
雇用契約書で定年60歳(延長なし)という書き方は大丈夫ですか?
この記載方法に関しては、結論から申し上げますと、その記載は高年齢者雇用安定法(第9条)に抵触し、法違反と判断されるリスクが極めて高いです。
社労士の実務視点で言えば、そのままの文言で雇用契約書を作成・締結することはおすすめできません。
以下の理由と、適正な書き方について解説します。
1. なぜ「延長なし」がダメなのか
現在の法律では、定年を65歳未満(例:60歳)に定めている企業に対し、以下のいずれかの措置を講じることを義務付けています(高年齢者雇用確保措置)。
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65歳までの定年引き上げ
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65歳までの継続雇用制度(再雇用制度など)の導入
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定年制の廃止
「定年60歳(延長なし)」という表記は、上記の「2. 継続雇用制度」すら拒否している(=60歳で完全に雇用を打ち切る)と解釈されるため、法第9条違反となります。
2. 2025年4月からの「選別基準」撤廃の影響
ご存知の通り、2025年(令和7年)4月1日からは、継続雇用の対象者を絞り込むための「労使協定による基準」の経過措置が完全に終了しました。
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現状(2026年時点): 本人が希望すれば、会社側は「基準に満たないから」という理由で再雇用を拒否することはできません。
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そのため、契約書に「延長なし」と明記していても、その条項は公序良俗や強行法規(雇用安定法)に反し、無効とされる可能性が高いです。
3. リスクを回避する正しい記載例
実務上、60歳で一度「正社員としての契約」を終了させ、その後「嘱託社員として再雇用」したい場合は、以下のような構成にするのが一般的かつ安全です。
【修正案 A:継続雇用制度を明記する場合】
(定年等)
第〇条:従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2.前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用を希望する者については、満65歳まで継続雇用(再雇用)する。
【修正案 B:就業規則を引用する場合】
(定年等)
第〇条:定年および定年後の継続雇用については、就業規則第〇条の定めによるものとする。
※就業規則側で「希望者全員を65歳まで継続雇用する」旨を記載しておく。
実務上の注意点(社労士の観点)
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「定年延長」と「再雇用」の区別:
「延長なし」という言葉が「60歳の定年年齢そのものを引き上げることはしない」という意味(=再雇用で対応する)であれば意図は分かりますが、契約書としては「再雇用制度があること」を明示しないと、募集・採用時の明示義務違反にもなりかねません。
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助成金への影響:
このような不適切な記載があると、特定求職者雇用開発助成金や、65歳超雇用推進助成金などの申請において、労働法令違反として不支給事由になる恐れがあります。
アドバイス
もし顧問先から「60歳でどうしても辞めさせたい人がいるから『延長なし』と書きたい」と相談されているのであれば、それは「契約書」で制限するのではなく、「心身の故障」や「著しく著しく勤務成績が不良」など、客観的に解釈可能な「解雇事由(または再雇用拒否事由)」に該当するかどうかの実務判断が必要になります(ただし、非常にハードルは高いです)。
雇用契約書の正しい書き方
社労士としの実務視点では、「定年制の有効性」と「65歳までの雇用確保義務」を両立させた書き方にするのが鉄則です。
会社が「60歳定年」を維持しつつ、法的に安全な雇用契約書にするための具体的な文案を、3つのパターンで提案します。
パターン1:就業規則を引用する(最も推奨)
実務上、最もミスが少なく、かつ柔軟なのがこの書き方です。詳細な条件(給与の変更など)を就業規則に委ねることで、契約書自体はシンプルに保てます。
(定年等)
第〇条:従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。ただし、定年後も引き続き雇用を希望する者については、就業規則第〇条の定めに従い、満65歳まで継続雇用(再雇用)する。
パターン2:契約書内で完結させる(就業規則がないまたは詳細を明示する場合)
従業員数10名未満の事業所など、契約書で全てを明確にしたい場合に適しています。
(定年および継続雇用)
第〇条:定年年齢は満60歳とする。
2.前項にかかわらず、定年到達時に継続雇用を希望する者は、満65歳まで嘱託社員として再雇用する。
3.再雇用後の労働条件(賃金、労働時間等)については、別途締結する雇用契約書によるものとする。
パターン3:70歳までの努力義務も含める(先進的な企業)
改正法の「70歳までの就業確保措置」を意識し、誠実な企業姿勢をアピールする場合の書き方です。
(定年等)
第〇条:定年は満60歳とする。
2.定年以降の継続雇用については、高年齢者雇用安定法に基づき、以下の通り取り扱う。
(1) 65歳までは、希望者全員を再雇用する。
(2) 65歳から70歳までは、会社の定める基準および就業確保措置(再雇用、業務委託等)に基づき、可能な限り就業の機会を提供する。
記載時の「実務上の落とし穴」と対策
以下の文言が入っていないか、または入ってしまっていないかをご確認ください。
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❌ NGな表現:「会社が必要と認めた場合に限り延長する」
2025年4月からは経過措置が終了したため、65歳までは「基準による選別」ができません。この文言は法違反を疑われる原因になります。
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⭕ OK(重要)な表現:「定年をもって退職とする」
一度「退職」することを明記しないと、正社員の処遇(高い基本給や退職金計算の勤続年数)がそのままスライドしてしまうリスクがあります。
補足:従業員の資金計画への影響(FP的観点)
「定年60歳」と書く場合、従業員の方には「60歳で一度退職金が出る(可能性がある)」ことと、「60歳以降は雇用保険の給付(高年齢雇用継続給付)が2025年4月から縮小されている」ことをセットで伝えないと、定年後の生活設計でトラブルになりやすいですので注意してください
まだまだ続編がありますので、乞うご期待!!









