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Release: 2025/11/13 Update: 2025/11/13

会社による給与振込口座・支店の指定と手数料負担について

 給与振込口座・支店の会社指定の合法性

結論:原則として、会社が特定の金融機関や支店を一方的に指定することは違法となる可能性が極めて高いです。

 

 労働基準法の原則

労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」という賃金支払いの五原則(通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則、毎月一回以上払いの原則、一定期日払いの原則)が定められています。

 

通貨払いの原則の例外(口座振込)
現在では、労働者の同意を得た場合に限り、指定された銀行その他の金融機関への振込みによる支払いが認められています(労働基準法施行規則第7条の2)。

 

 ここでいう「指定」は、労働者が指定した金融機関口座を指します。
労働者の意思に反して、会社が特定の金融機関口座を指定し、その口座以外での支払いを認めないという取り扱いは、労働者の自由な財産管理を侵害し、実質的に通貨払いの原則に違反するものと解釈されます。
したがって、会社が特定の口座を指定する場合は、労働者側からの同意、または「その口座を開設して欲しい」という程度の協力依頼に留める必要があり、強制することはできません。

 

 指定口座以外への振込手数料差し引きの可否

結論:原則として、給与から振込手数料を差し引く(控除する)ことは違法です。

 

労働基準法の原則

労働基準法第24条の「全額払いの原則」に違反します。

 

全額払いの原則の例外

 賃金から控除が認められるのは、法令に定めがあるもの(所得税、住民税、社会保険料など)か、または労働者の過半数で組織する労働組合(または労働者の過半数を代表する者)との書面による協定(労使協定)があるものに限られます。

※給与振込手数料は、これらの例外に含まれません。

 

 手数料負担の考え方(実務上の解釈)

 

 口座振込は、本来「通貨払い」であるべきところを会社側の便宜のため労働者の同意を得て行われる例外的な支払い方法です。
この支払いにかかる費用(振込手数料)は、会社が負担すべき経費と解釈されます。
したがって、会社は手数料を差し引かずに、労働者が指定した口座へ全額を振り込まなければなりません。

 

補足:デジタル払い(賃金の資金移動業者の口座への振込み)について

2023年4月以降、労働者の同意があれば、銀行口座に加え、資金移動業者(〇〇Payなど)の口座への賃金支払い(いわゆるデジタル払い)も可能になりました。

この場合も、賃金支払いの五原則(特に全額払い)が適用されますので、デジタル払いを選択した場合でも、手数料を差し引くことは認められません。

 

(まとめ)社会保険労務士としてのアドバイス

現在もそのような会社の事例があるようですが、上記のとおり、労働基準法に照らして違法性の高い取り扱いです。

 

<労働者の皆様へ>: 会社から指定口座の開設を強く求められたり、指定口座以外への振込で手数料を差し引かれたりした場合は、最寄りの労働基準監督署に相談することを推奨します。

 

<経営者の皆様へ>: 会社が指定口座の利用を促す場合は、あくまで協力のお願いに留め、指定外口座でも手数料は会社負担で全額を振り込む必要があります。コンプライアンス遵守の観点からも、改めて賃金支払い方法を見直すことをお勧めします。

 

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